准教授 高野先生のこと
その人は先生にとってはアイドル歌手で、私にとっては女優さんだった。
先生と一緒にいて自分は子どもだなぁと思い知らされることは多々あった。
けれども――
趣味や遊びの話で、いわゆるジェネレーションギャップを感じたことは無い。
考えてみると10歳違えばいろいろな細かい世代差は当然のこと。
流行った遊びや言葉、よく見たアニメとか、給食にあった献立とか。
もっとも――
私にとってはそんな違い、さしたる重大な問題ではないのだけれど。
「声がキレイな人って心惹かれますね」
先生は由貴ちゃんの『MAY』という曲を聞きながらぽつりと言った。
さっきから流れている彼女の歌声は、私もいいなって思ってた。
清潔感と透明感があって、まるでふうわりと石鹸の匂いが漂ってくるようで。
先生はキレイな声の女の人がお好みらしいけど、私の声は残念な感じ……。
小鳥のさえずりのようなソプラノとは真逆の微妙なアルト。
「けど、声もそうですが、やっぱり僕は言葉かなと思うんです」
「言葉、ですか?」
「言葉です」
『MAY』が終わり、車の中にわずかな沈黙が訪れた。