准教授 高野先生のこと
『砂の城』がかかり始めると、先生はまたゆっくりと話しはじめた。
「話し方ってとても重要で、それが合わない人だとちょっと難しいですね」
先生はやっぱり言葉にしのぎを削っている人だから。
相手に求めるものとか、譲れないものとか、それはきっと誰にでもある。
例えば――
容姿、教養、学歴、或いは……財力とか。
強さ、優しさ、行動力、包容力。
数あるものの中で先生にとって大切なのは言葉なのだ。
先生自身の話し方を思えば、それはとても合点のいくことだ。
私が先生を好きになったきっかけだって考えてみると言葉だった。
先生の言葉への眼差しはとても素敵だから。
愛情があって、遊び心があって、ときには、緻密で、実直で……。
先生の紡ぎ出す言葉には煌きと趣きがある。
そんな言葉が織り成す高野先生の世界のとりこになってしまったのが私なんだ。