准教授 高野先生のこと

声は今更どうすることもできないけれど、お話の仕方ならなんとか……。

なんて一瞬思ったけれどすぐ、それは難儀に違いないと思い直した。

だって――

「高野先生に気に入られる話し方なんて、すごくハードル高そうですね」

先生は言葉のプロだ。

そりゃあプロのシェフの奥さんがみんな料理が巧いわけではないだろうけど。


「完璧な日本語を求めているわけではないんです。要は合う合わない。好みです」

「好み、ですか」

それはそれでまた難しそうだ……。


「ほんと、感性の問題というか。いわゆるフィーリングというか」

完全に手詰まりな気がした。

だって、センスって努力ではどうにもできないものだから。


「そういえば先日、学生とこんなことがあったんです――」

そう言って、先生は学生さんの文章を添削指導したときのことを話し始めた。

けれども――

それは晴れていた私の心模様をあやしく曇らせる内容だった。




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