准教授 高野先生のこと
「彼女は穿ったものの見方をする子で、話の切り口なんかもユニークなんですね。
文章を書かかせるとね、すごいんですよ。
若い子とは思えない硬質な文体なんです。
レトリックなんかも非常によく理解をして効果的に使われているんですね。
そんな彼女が僕のところに添削指導を求めてやってきたんです。
で、初めてその子と話をしたわけなんですけど。
これがなんというか……。
文章からはおよそ想像できないような話し方だったんです。
例えば――
“ここ、比喩ってみたんですけど”とか。
“体言止めたほうが効果的ですか”とか。
“倒置法を一発かましてみました”とか。
“あらら、脱字ぶっこいてますね”とか。
彼女は言葉を知らないわけじゃないんですよね。
文章を読めばそれは明白です。
多彩な語彙や正確な文法の理解がある子なんですよ。
もちろん敬語だって完璧なはずです。
なのに話し言葉は“ぶっこいて”いる……。
僕は教員なんで一応諭しはしました。
そういう話し方はどうかと思うよ、と。
けど、本当は内心かなりグっときてましたね。
言葉遊びをしているわけですよね、彼女は。
僕がへぇと思うのは、彼女が的確に判断しているというところです。
その遊びが通じる相手かどうかをね。
たぶん単に僕が若いぺーぺーだからではないんです。
藤森先生や的場先生にも同じような接しかたをするのでしょう、彼女は。
間違っても由利先生にはしないでしょうね、きっと。
言葉を楽しめることも、楽しめる相手かを嗅ぎ分けられることもすごいな、と」