准教授 高野先生のこと
「詩織さんは言葉に責任感のある人だと僕は思うんです。
手紙をいただいた時、それ感じました。
読む人をちゃんと意識した文章だな、と。
いつも言葉をよく選んで話す人だなとは思っていましたが――
先日、森岡を病院へ送った日です。
とても“あぁ”と思いました。
帰りしなに森岡になんて声をかけたらいいか少し戸惑っていたでしょ?
白状すると、あなたが何て言うのかなって、僕はすごく興味を持って……。
そして、あなたの言葉を待って見ていたんです。
意地が悪いですけど、まったく……。
“寄り添ってきてください”は秀逸でした。
あのとき森岡はとても不安で弱気で、初めてのことで緊張していましたよね?
決して“頑張って!”なんて言ってはいけない場面だと僕も思っていました。
あの台詞は森岡にも出来ることがあって、それは何かというのを集約していました。
森岡はきっと全力で奥さんに寄り添ったと思いますよ。
詩織さんの話し方には、とても優しい距離感があると思うんです。
踏み込みすぎないし、突き放しもしない。
だけど、あなたがそこにいることがわかる。
そうして味方でいてくれることがわかる。
ガッと土足で入ってきて、サッと居なくなるような刹那的な優しさじゃないんです。
責任感があるんですよ。
自分の発した言葉の行方を見守る責任です。
ほどよい距離感がとれるのも慎重に言葉を選ぶことができるのも、つまるところ――
詩織さんが優しい人だからです。
知性だけでそれだけのことができるわけないんです、絶対に」