准教授 高野先生のこと

「秋ってどんなに明るく見える風景でも、ちょっとした憂いや淋しみが必ず隠れている気がするんです」

先生はそう言って少しだけ目を細めた。


そういえばむかし、美術の授業で――

明るくきつい色にはグレーをまぜると色彩が落ち着くって聞いたことがあったっけ。


秋の風景が与える独特の安らぎは、きっとほんのり混ざった憂いや淋しさのせい。


まるで赤や黄色やオレンジにひっそりと混ざったグレーのような。


高野先生と一緒にいると安らぐのは、先生がどこか憂いを湛えているからなのかも。


こんな言い方おかしいけれど、先生ってとても淋しさに精通している気がする。


淋しいことの辛さ、苦しさ、悲しさ……それに、ちょっとした素敵さも。


人はたいてい淋しさから逃れようと懸命にもがいてみたりするものだけど。


先生はまるで達観したかのようにうまく折り合いをつけて生きている。


先生のそういう潔さに何故か私は心惹かれてしまうのだ。


これって自分でもちょっと変わってるなと思うけれど……。



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