准教授 高野先生のこと

車に乗ると私はそそくさとシートベルトをしめた。

いつも通りの自分を演じたくて。

妙な期待なんてしていないと装いたくて。


先生は一旦シートベルトをしめようとして……途中でやめた。


そして、ゆっくりと隣りの私を見て言った。


「送りましょうか」

「えっ」

「それとも……」


私はじっと耐えて先生の次の言葉を待った。


「一緒に来ますか、僕と」

ちょっと、ずるいなと思った。


「先生が、決めてください」

精一杯の反撃だった。



< 198 / 462 >

この作品をシェア

pagetop