准教授 高野先生のこと
車に乗ると私はそそくさとシートベルトをしめた。
いつも通りの自分を演じたくて。
妙な期待なんてしていないと装いたくて。
先生は一旦シートベルトをしめようとして……途中でやめた。
そして、ゆっくりと隣りの私を見て言った。
「送りましょうか」
「えっ」
「それとも……」
私はじっと耐えて先生の次の言葉を待った。
「一緒に来ますか、僕と」
ちょっと、ずるいなと思った。
「先生が、決めてください」
精一杯の反撃だった。