准教授 高野先生のこと

今の状態を敢えて例えるならば、ずぶ濡れになった貧相な犬、みたいな……。

そんな私を先生は正面からじーっと見つめた。

まじまじと見つめられると恥ずかしくて、思わず視線をふいと逸らす。

「お、おかえりなさいっ……」

「うん。ただいまなさい」

そうして――

先生は何やらへんてこな挨拶を返して、貧相なずぶ濡れの犬を抱きしめた。


「眼鏡、かけるんだね」

「視力、悪いんです」

「知らなかったな」

「言ったことないですもん」

「あったかい」

「だって、お風呂上りですから……」

「ほかほか、だね」

「そりゃ……ほかほか、ですよ」


私は先生の胸に顔を埋めたまま、もごもごぼそぼそと答えつづけた。





< 229 / 462 >

この作品をシェア

pagetop