准教授 高野先生のこと
今の状態を敢えて例えるならば、ずぶ濡れになった貧相な犬、みたいな……。
そんな私を先生は正面からじーっと見つめた。
まじまじと見つめられると恥ずかしくて、思わず視線をふいと逸らす。
「お、おかえりなさいっ……」
「うん。ただいまなさい」
そうして――
先生は何やらへんてこな挨拶を返して、貧相なずぶ濡れの犬を抱きしめた。
「眼鏡、かけるんだね」
「視力、悪いんです」
「知らなかったな」
「言ったことないですもん」
「あったかい」
「だって、お風呂上りですから……」
「ほかほか、だね」
「そりゃ……ほかほか、ですよ」
私は先生の胸に顔を埋めたまま、もごもごぼそぼそと答えつづけた。