准教授 高野先生のこと
私はなんだか気のないふりをするみたく再び窓のほうへ向き直った。
パジャマ姿で見詰め合うのが、すごく照れくさかったから……。
先生がつつーっと私の隣りにやって来る。
「何、してたの?」
「別に、何も……」
「何も?」
「あ……月、見てました」
先生と眺めた、あの月を思い出しながら。
「今夜は満月じゃないんだよ」
「え?」
「あの夜は、もっとまんまるだった」
肩を抱かれて、引き寄せられて、私は縋るように先生にぴたりとくっついた。
「とても印象的な月だったよね」
「印象的な月でした、とても……」
私はもう――
今夜の月を見上げることも、先生の顔を見上げることもできなくなっていた。
「たぶんあの時にはもう、君は僕の心の中にすっかりおさまっていたんだ」
先生のほうこそ……。
私の心の中にすっかり居座って寛いでいたくせに。
私たちはもうあの頃すでにお互いに心を預け合っていたんだ。
そう思うと幸せで、私は先生に体を預けながら、その胸を借りて泣きたくなった。