准教授 高野先生のこと
タリーズでコーヒーを買った私たちはフロア中央の明るいスペースまで移動した。
吹き抜けの開放感溢れるその場所は階下の様子がよく見える。
ベビーカーを押して歩く若い夫婦。
パパやママのそばで、賑々しくはしゃぐ子どもたち。
たちこめる休日独特の空気。
ご家族連れのみなさんの、眩しいくらいのパステルカラーのエネルギー。
結婚は新しい家族の始まり……。
そう思うと、とても厳かで軽々しく憧れたりはできない気がした。
海へ行ったあの日、先生が言った言葉が頭をよぎる。
“男は一人の女しか守れない、女は一人の男しか救えない”
お互いがたった一人の相手だって、いったいどうして確信するんだろう?
私に先生に守ってもらえる価値があるのか?
果たして――
“先生の残りの人生を私に下さい”などと私は言える私なの?
隣りで同じように階下の風景を眺めていた先生が私のほうへ向き直って静かに言った。
「誕生日の特権ってことで、僕の考えを言わせてもらえるかな。聞いてくれる?」
もちろん私は神妙な面持ちでゆっくりこっくり頷いた。