准教授 高野先生のこと

私には拠りどころとなる経験もないし……。

そんな自分の感覚をどうもいまいち信用できないというか。

いや、信用してはいけないような気がするというか。

やっぱり、どうしていいかわからなくて……。


「詩織ちゃん、別に今すぐ結婚してくれって言ってるわけじゃないんだから」

「それはそうですけど……」

けど今の私にとっては同じようなもんだった。

今すぐに決めて?選んで?と言われているのと。


「僕のことが好き?」

「えっ」

こんな聞かれ方は初めてで、ちょっとびっくり。

私は俯いてぽつぽつと呟くようにそれに答えた。

「好き、ですよ……もちろん、大好きです」

自分で言いながら、それを確認しているような、なんだかおかしな言い方だった。


「じゃあ、僕ともう少し付き合ってみてもいいと思う?そう思ってくれてる?」

「そんなこと……」

もう少しも何もずっと、ずっとずっと……。

「一緒にいたいって思ってますよ」

「じゃあ、それだけでじゅうぶん」

「えっ?」

戸惑いながら顔を上げると――

「とりあえず今はね。それだけで十分すぎるほど十分だよ」

私をほっと安心させる、いつもの先生の穏やかな笑顔がそこにあった。



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