准教授 高野先生のこと

「僕は、恋愛ってタイミングが重要だと思うんだよ」

先生はそう言ってぼんやりと階下の賑やかな風景に目を遣った。


「タイミング?」

「そう。出会うのも、告白するのも、結婚を意識するのも、プロポーズするのもね」

そんなこと今まで考えたこともなかった。


「もし、君が在学中に僕のゼミに配属になってたら……」

「……?」

「たぶん、こうはなってなかったと思う」

「えっ」

ちょっと……いや、かなり衝撃的だった。


「僕は成績をつけたりつけられたりする関係で恋愛なんて無理だと思ってるから」

「けど、卒業してからとかなら……?」

「やっぱり考えにくいと思うね」

先生がゆっくり首を横に振る。

「一度徹底的に恋愛対象から外して関係を築くとね、それが定着しちゃうんだ」

あくまでも僕の場合だけど、と先生はちょっとだけ念を押した。


過去に学生とそういう関係になったことがない事実を嬉しく思う。

その反面――

私はとてもひやっとした。

もしも、出会うタイミングが少しでも違っていたら……。

私は先生の隣りにこうしていなかったのかもしれないのだから。


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