准教授 高野先生のこと

「君とはいいときに出会えたと思うんだ」

「いいとき、ですか?」

「うん。出会った頃にはもう君は教え子というより普通の後輩だったし。

僕らは遠距離でもなくこうして同じ街に住んでいてさ。

僕も君もお互いにピカピカの独身で、つきあっている人もいなくて」


私はとても幸運なんだ。

もしも――

私が先生んとこのゼミ生でガチガチの師弟関係にあったら?

私が隣県からヒーフー言いながら遠距離通学をしていたら?

先生が結婚していたら?どちらかに付き合っている人がいたら?

状況が違っていたら、きっと今のような二人じゃなかった。


「世の中にはね、タイミングさえ合えば上手くいっていたって恋愛が星の数ほとあると思うんだよ」

先生はそう言ってほんのちょっと悲しげに笑った。

赤い糸は思いのほか儚くもか細くて、案外たやすく切れちゃうのかも。

必ずしも手繰り寄せられるとは限らないなんて、なんて残酷なんだろう。


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