准教授 高野先生のこと
表情を微妙に曇らせた私を見て、先生はばつの悪そうな困ったような顔をした。
「急に色々なことを言って困らせてしまったみたいで。なんだかすまなかったね」
「そんなこと、ぜんぜん……」
もとはといえば唐突に話を振ったのは私のほうだし。
「君が話を振ってこなくても、近いうちにちゃんと話したいって思ってたんだよ」
「えっ」
「学位をとってからのこと、まだ決めかねているようだったから」
私が所属する研究室の学生は皆進路の決定がとても遅い。
真中君のように博士課程に進学する人以外は公務員や教員志望が多いのだ。
そんな中で教員免許すらなく公務員志望でもない私は一人浮いていた。
皆に比べて私はまったく暢気なもので……。
地元の親戚が法律事務所をやっていて、その気があれば来てもいいと言われていたし。
或いは――
ずっとバイトでやってきた医療事務の仕事を探すのもいいかな?とか思ったり。
そんなわけで、とりあえず……。
実家に戻りさえすれば住むところも働くところもあまり心配なかったのである。
国文学を活かした就職なんて私ははなから諦めていたし。
社会人になったら生活の為に地味に堅実にやっていくのみだと思っていた。