准教授 高野先生のこと

この街には多少の愛着はあっても執着すべきものは何もなかった。

「君に選択の余地があって、状況が許すのなら、ここへ残って欲しいと思ってる」

そう……先生とこんなふうになるまでは。


「君が学生のうちは無理だけど、そうでなくなれば同棲って手もあるし。

もちろん遠距離になったからって、必ずしもダメになるとは限らないよ。

だけどね、絶対にそばにいたほうがいいに決まってるって思うんだ。

それこそこれも1つのタイミングでさ。

“あの時、離れてさえいなければ……”

なんてことも無きにしも非ずだからね。

進路のことは君の意思はもちろんご両親の意向やご家庭の事情もあるだろうけど。

とにかく僕は真剣に考えているってことをまずは伝えておきたかったんだよ。

あとになってさ――

“そんな風に考えていたなんて知らなかったんだもの……”

なんてことになったら悲しすぎるからね」

先生はそう言ってぬるくなったであろうコーヒーを一気に飲み干した。


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