准教授 高野先生のこと

本気で誰かを好きになったら、余裕なんてなくなっちゃうから。

まさしく、いつぞや先生が私に言ったように“いつだって余裕なんてない”のである。

恋愛ってとても素敵だけれど、実はけっこうカッコ悪い。

恥ずかしいことだっていっぱいある。

余力を残して余裕をもってなんて、カッコいいこと言ってられなくなるのだから。


「タイミングって重要なんでしょ?私、逃さないように頑張りたいです」

「詩織ちゃん、頑張るってそんな……」

「だって……!」

「真剣に考えみて欲しいとは言ったけれど、そんなに構える必要はないんだよ」

「けど……」

「君は僕と一緒にいたいって思ってくれてるんだよね?

その気持ちがさ、自然に育っていってくれたらいいなって思うんだよ。

“もう少し”が“もっと”になって。

“もっと”が“もっともっと”になって。

“もっともっと”が“ずっと”になって。

“ずっと”が“ずっとずっと”になってさ。

そうしたらきっと自然に僕たちはお互いの最後の人になれるんじゃないかなって。

そんな風に僕は思っているんだよ。

そうやって少しずつ、だんだんと二人の距離が近づいて、縮まって。

君が僕のところへ来てくれたらいいなって思うんだ。

頑張ってくれる気持ちはすごく嬉しいけれど、無理は禁物なんだよ。

それだけは、忘れないでいてね」

私は一度こくりと黙って頷いて、冷めきったコーヒーを一口ごくりと飲んだ。

それから、もう一度。

改めて言葉の重みをかみしめるように確認するように、ゆっくりと頷いたのだった。



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