准教授 高野先生のこと

薄暗い廊下をずんずん歩いていく途中――

「鈴木さん?ですよ、ね?」

背後から声をかけられ立ち止まる。

聞き覚えのある声にくるりと振り返ると、懐かしい水原先生の笑顔がそこにあった。

「久しぶりですね、卒業以来でしょうか」

「先生~!ご無沙汰してます!」

こちらに歩み寄る先生に、私は嬉しさいっぱい駆け寄った。


水原先生の研究室は相変わらずのまま。

壁にかけられたとっても大きなコルクボード。

ボードは卒業生からのハガキや学生と一緒に撮った写真でいっぱい。

先生は私にイスをすすめ、それから紅茶とお菓子でもてなしてくださった。

「こうして母校を訪れる学生がいてくれるのは、教員にとって励みになりますね」

先生は嬉しそうににっこり微笑み静かに紅茶を口にした。

「なんだかいつまでも卒業できていないみたいで……」

これはけっこういつも思っている私の本音。

私は恥ずかしさから恐縮し、目を伏せてカップの中の紅茶を見つめた。


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