准教授 高野先生のこと

水原先生はそんな私にこう言われた。

「母校は港の母港ともいいますよ」

「港、ですか?」

「そうですよ。卒業していく学生たちは皆、社会という大海原に漕ぎ出す船なのですよ。

大海では嵐に出くわしたり、思いがけない試練に見舞われることもあるでしょう。

傷つき疲れ果て、航海を続けるのが困難になるときもあるかもしれません。

そんなときは、この港へ戻って一休みしてかまわない、と。

ぼくはそう思うのですよ。

帰港して初めて船出した日のことを思い出し、また再出発してくれたらいい、と。

いつでもぼくらはここで待っています。

そうしてみなさんを迎え、またいつかのように見送るのです。

それもぼくたち教員の大切な仕事なのですよ。

もちろん、順風満帆の航海の途中にふらっと寄港するのも大歓迎です。

そんなときは楽しいお土産話をたくさん聞かせていただきたいですね。

鈴木さん、あなたのようにね」

「ええっ」

いきなり、あまりにもいきなりだったから……すごくびっくり。

先生はそんな私の驚きも意に介さず、ゆったり穏やかに微笑まれた。


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