准教授 高野先生のこと

まさか水原先生とご一緒することになるとは……。

少しお話ししてカードを渡したら失礼するつもりだったのに。

「鈴木さんは国文だからご存知ですよね?高野先生」

「ええっ!?」

「あ、ご存知なかったですか?そうか、講義を一度もとったことがなければ……」

「いえっ、ぞ、存じ上げております」

あからさまに不自然な態度だ、私……。

だって、水原先生がいきなり“高野先生”だなんて仰るから。

それにしたってもう存じ上げてるも何も――

パンツの柄まで?その中身まで?よーく存じ上げて……あわわわわっ。

「先日、学食でお目にかかったときに礼拝にちらっとお誘いしたのですが、ね。

そうしたら今日、図書館で高野先生から声をかけてきてくださって、わざわざ。

それで、ご一緒にどうですかということになりましてね。

ぼくが出るときに高野先生に声をかける約束をさせていただいたんですよ」

「そう、なんですか……」

「かまいませんよね?」

「も、もちろんですっ」

むぅぅ、なんだか想定外の展開になってしまった……。

水原先生にはどんな嘘も通用しないような。

その清らかな心ですべてを見透かされてしまうような。

そんな気がして、私はにわかに緊張した。


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