准教授 高野先生のこと
病気になっても、安心して頼れる家族に恵まれていなかった深雪さん。
彼女は大学だけは卒業したいと、親の助けもないままに必死に頑張り続けた。
そんな彼女を支えたのが田丸先生だったのである。
卒業と同時に入籍したのは、彼女を安心して療養に専念させたかったから。
体力勝負の保育士の仕事は、加療が必要な状況の彼女には難しかったのである。
だから、結婚してまずは安定した家庭の中で病気を治すことだけを考えよう、と。
「あいつに迷いはなかったみたいだよ」
「そっか、そうだったんだね……」
「いずれはと思っていたし、それが少し早まっただけだって。
結婚式はね、とてもアットホームな良い式だったんだけどね。
彼女の両親は来なかったよ。呼ばなかったんだって、あえて。
田丸の両親はとても懐の深い人たちみたいでね。
まあ、あいつを見れば想像がつくけど……。
深雪さんのことを、本当の娘のように大事に可愛がっているらしいよ」
そうか、そうなんだ……深雪さんにはもう、温かい家族がいるんだ。
いつも一緒に家族がいて、そこには確かな愛があるんだ。
だからもう、絶対ぜんぜん一人じゃない。
そう思ったら――
なんだか救われた気持ちになって、ほっとして思わず涙がにじんてきた。