准教授 高野先生のこと

「深雪さんはとても強い人で、絶対に涙を見せようとしなかったんだって。

だけど、そんな彼女が初めて田丸に涙を見せたとき、

田丸は結婚しようって決意したんだって」

「初めて涙を見せたとき?」

「うん。あいつの大学もミッション系なんだけど、やっぱり礼拝があってね。

ある礼拝があった日の夕方に彼女があいつの研究室を訪ねてきたんだって。

でね、目に涙をいっぱいためて、田丸にこう質問したんだって。

“私にも、この十字架が背負いきれるでしょうか?”ってね。

“神様は背負い切れない十字架を背負わせたりはなさらない”と、

礼拝で神父様がそうおっしゃったんだって。

それであいつは思ったんだね、結婚しようって。

彼女といつも一緒にいようって、自分もその十字架を一緒に背負ってあげようって。

なにしろ非力で軟弱な僕なんかと違って、あいつは力持ちだからね、安心だ。

だからね、大丈夫なんだよ。

それにきっと、田丸家にもトナカイは行っているに違いない」

寛行さんはそう言ってふわりと笑い、ヨシヨシと私の頭を撫でてくれた。

「また、トナカイ???」

「そうだよ。おかわり自由です」

あんまり寛行さんが意味不明なことを言い張るから……。

私は、おかしくて、楽しくて、あったかくて、泣き笑いした。




< 436 / 462 >

この作品をシェア

pagetop