准教授 高野先生のこと

「あの……」

「何?」

「だから……」

「うん?」

「あの……その……しません、か?」

鼻がつぶれるほど、ぎゅーっときつく彼の腕にしがみつく。

もごもごぼそぼそだけど、やっとの思いで“おねだり”敢行。

まあ、甘々のおねだりというより、遠慮がちな提案みたいになっちゃったけど。

それでも――

頑張って、すごく頑張って言ったのに――

「……」

寛行さんは無言で――

私はその刹那の沈黙が、たまらなく不安で居た堪れず……。

思い切り弱気になって、情けないほど怯んでしまった。

「もちろんね、寛行さんが良ければってことで気が進まないなら別に……」

「ごめん」

「えっ……」

「いやっ、そうじゃなくて!」

「……?」

「僕、嬉しかったんだけど。少し、びっくりして……」

寛行さんが、しがみつく私の腕をそっと解く。

そうして――

彼の腕の中に、胸のそばに、きゅっと私を引き寄せてくれた。
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