准教授 高野先生のこと

翌朝、正真正銘のクリスマスイブ。

私も寛行さんも“平常通りの営業”である。

寛行さんは、午前中から講義のある私をいつものようにおくってくれた。

Y大のキャンパスからちょっと離れたところで車を止めるのがお約束。

「今日も頑張ってお勉強してきて下さい」

「ハイ。ええと、これ……」

「ん?」

「メリークリスマス、です」

シックな包装紙に包まれた可愛らしい小さな箱。

そして、洋形の真っ白い封筒。

私はそれらを押し付けるように寛行さんに手渡した。

「四角い箱は私から、封筒のほうは……トナカイに頼まれたんです」

「トナカイに?」

「そうです。まあ、読めばわかります。じゃ、行ってきまーす」

「ええっ?」

ちゃっちゃとシートベルトをはずして、逃げるように車を降りる。

寛行さんが、どんな顔をしているか気になって確かめてみたかったけど……。

振り返らずに我慢して私はもくもくと大学へ向かって歩き始めた。


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