准教授 高野先生のこと
「それじゃあ、行きますか」
「ハイ、安全運転でお願いします」
「もちろん。責任を持って、詩織ちゃんを“実家周辺”まで送り届けますとも」
「“実家周辺”まで、ね……」
そう……この“周辺”というのが味噌なのだ。
寛行さんはちゃんと家まで送り届けて御両親に挨拶を、なんて言ってくれたけど。
私は、そんな有難い申し出を今日のところは丁重にお断りしたのだった。
これは一重に、鈴木家の事情をおもんばかってのこと。
だってまだお母さんにも寛行さんのことを話していないから……。
私の両親は、娘の彼氏という存在にとにかく免疫がない。
お母さんはまだしも、私はお父さんの反応がとてもとてーも心配で。
なにしろ、お父さんの中の私は女子校育ちの無垢な愛娘のまま止まってるので。
そんなわけで、今回の帰省ではまずは先にお母さんに話をすること。
そして、お母さんからお父さんに娘の彼氏の存在を匂わせてもらい……。
じわりじわりと浸透させてもらおう、と……。
愛娘の可愛い“しーちゃん”は、密かに目論んでいるのである。