僕等は彷徨う、愛を求めて。Ⅰ


どうして平然と、金銭的な話だと言えたんだろう……。


何も悪いことではないと、遠慮することもないんだって思ってるのが分かる。


帰ってくださいと言ったあたしと祠稀を、おばさんは恨めしげに睨んでいた。


……憶測でしか、ないけれど。この育ての親だと言うふたりは、彗が持ってるお金を求めてやって来たんだ。彗が連絡を返さなかったのも、それが嫌だったから。


きっと彗が持ってるお金は、ご両親の遺産だ。


グッと唇を噛んで、あたしはもう一度頭を下げる。


「本当にごめんなさいっ! 帰っていただけますか!」


あたしの必死の言葉は、玄関から響く明るい声とかぶった。


「たっだいま〜! 祠稀ー、有須ーっ! 誰か来てんの〜?」


開けられたドアからリビングに響く凪の明るい声に、あたしと祠稀は顔を見合わせる。



凪と……彗が、帰ってきてしまった。



.
< 169 / 641 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop