吸血鬼の花嫁


ルーは本気で怒っているらしく、語気が荒い。


「あるんだよ。ないっつって許されんのは幼子だけだ」

「なら、わらわも幼子じゃ。少なくとも見かけは問題なかろう」


ルーと紫焔が睨み合うように対峙する。

しばらく見つめ合った後、先に視線を外したのは、ルーの方だった。


「……わかんねぇならもういい、帰ってくれ」


紫焔を拒むようにルーは私たちに背を向けた。


「そうか、それなら遠慮なく。行くぞ」


私はなぜか紫焔に手を掴まれ、応接間から無理矢理連れ出された。

そして、言われるまま私の部屋まで案内させられる。


「それで、女同士でしか話せない悩みとは?

わらわはこう見えても長生きじゃから、なんでも相談するが良い」


部屋につくと、紫焔がベットにちょこんと座り、さあ話せと言わんばかりに私を見上げた。

紫の瞳は、硬質で透明だ。

喋らずに座っていれば人形と間違えてしまいそうである。


「ええと…」


こんな幼い姿をした紫焔に向かって、私とユゼの間に起きたことを説明する気にはなれなかった。

いくら年上であろうとも、外観は十歳にも満たない子供なのである。

せめて紫焔が私と同い年ぐらいであれば、話しやすかったのに。

どうしたものかと私は頭を悩ませる。


「その、吸血鬼にとって、恋って何?」


胸の奥から強引に引っ張って来た疑問を尋ねる。


「恋?」

「だって、貴方たちは、人を思い通りにする術があるから。

恋焦がれたりしないんじゃないかなって…」


好きになったら、束縛し手に入れる方法があるのだ。

紫焔は、僅かな間黙り込む。


「確かに、わらわは眷属たちに深く深く愛されている。わらわには贄がいないが、贄たちも同様に主人を求めるそうじゃな。

だがそれは、所詮血による盲目的なものであって、恋ではないじゃろう」


一度言葉を切って、紫焔は息を吸う。


「恋は盲目というが、盲目は恋ではない」


幼いはずの紫焔の声が、大人びて聞こえた。年長の者独特の疲れた響きがある。


「悩んで、迷って、揺れる。

それを含まぬものは、恋ではない。ただの盲目じゃ」


< 124 / 155 >

この作品をシェア

pagetop