吸血鬼の花嫁
ルーは本気で怒っているらしく、語気が荒い。
「あるんだよ。ないっつって許されんのは幼子だけだ」
「なら、わらわも幼子じゃ。少なくとも見かけは問題なかろう」
ルーと紫焔が睨み合うように対峙する。
しばらく見つめ合った後、先に視線を外したのは、ルーの方だった。
「……わかんねぇならもういい、帰ってくれ」
紫焔を拒むようにルーは私たちに背を向けた。
「そうか、それなら遠慮なく。行くぞ」
私はなぜか紫焔に手を掴まれ、応接間から無理矢理連れ出された。
そして、言われるまま私の部屋まで案内させられる。
「それで、女同士でしか話せない悩みとは?
わらわはこう見えても長生きじゃから、なんでも相談するが良い」
部屋につくと、紫焔がベットにちょこんと座り、さあ話せと言わんばかりに私を見上げた。
紫の瞳は、硬質で透明だ。
喋らずに座っていれば人形と間違えてしまいそうである。
「ええと…」
こんな幼い姿をした紫焔に向かって、私とユゼの間に起きたことを説明する気にはなれなかった。
いくら年上であろうとも、外観は十歳にも満たない子供なのである。
せめて紫焔が私と同い年ぐらいであれば、話しやすかったのに。
どうしたものかと私は頭を悩ませる。
「その、吸血鬼にとって、恋って何?」
胸の奥から強引に引っ張って来た疑問を尋ねる。
「恋?」
「だって、貴方たちは、人を思い通りにする術があるから。
恋焦がれたりしないんじゃないかなって…」
好きになったら、束縛し手に入れる方法があるのだ。
紫焔は、僅かな間黙り込む。
「確かに、わらわは眷属たちに深く深く愛されている。わらわには贄がいないが、贄たちも同様に主人を求めるそうじゃな。
だがそれは、所詮血による盲目的なものであって、恋ではないじゃろう」
一度言葉を切って、紫焔は息を吸う。
「恋は盲目というが、盲目は恋ではない」
幼いはずの紫焔の声が、大人びて聞こえた。年長の者独特の疲れた響きがある。
「悩んで、迷って、揺れる。
それを含まぬものは、恋ではない。ただの盲目じゃ」