吸血鬼の花嫁
紫焔は少し意地悪そうに唇をあげて笑った。
そういう表情が紫焔にはよく似合っている。
「そなた自身のことか、はたまた別の誰かの話なのかは分からぬが、迷って悩んでいるのなら、それは恋なのじゃろう」
ふふふと、紫焔は吐息と共に唇を震わせる。
「盲目的に愛されるというのはつらいぞ。そこにわらわ自身いないのじゃからな」
「いない…?」
「そう。たまたま、わらわが魅了に長けていただけなこと。
わらわよりも強く魅了する者がいれば、皆そちらを愛するのだろう。
眷属たちはわらわを見て、わらわを知って愛してなどくれているわけじゃない」
主体性のない愛。
ただ単に、そういう体質になってしまったから、そうしているだけ。
故に、盲目は恋ではないと紫焔は言う。
「時々それが疎ましくなって、眷属たちに手酷いことをしたりする。
赤いのに聞いた。うちの者が迷惑をかけたようじゃな。すまなかった」
驚くほど素直に紫焔は頭を下げた。
プライドの高い紫焔には似合わない行為である。
そんなことをわざわざするのは、本心から謝っているからなのだと分かった。
「その、顔をあげて。あの時のことを許しているわけじゃないけど、でも貴方がやったことではないから」
「じゃが、ルーの言う通り、わらわは間接的に関わっている」
「うん、そうかもしれない。でも、謝られるべき人は私じゃない」
「……。そうか、ならば赤のとこの新米吸血鬼に謝っておくかの」
紫焔は私の言わんとすることを察したらしい。
納得したように頷いた。
「そうして」
「で、他には?」
「え」
「吸血鬼の恋となると、やはりあの青いののことか。苦労しそうじゃのう。昔はあんなに堅苦しい奴じゃなかったのに」
見透かすように、紫焔が目を細めた。
違うと否定したかったが、こんなに動揺していたら意味がないだろう。
「別にそういうわけじゃ…。それより昔はどんな風だったの?」
「……いや、その話はやめておいた方が良さそうじゃ」
紫焔は話を逸らすように小さく咳ばらいをした。
とても気になる。
だが、それ以上話す気はないようだ。