吸血鬼の花嫁
少年が布を抱えたまま、足で扉を開けたのだ。
「吸血鬼!マントを持ってきたぞ」
「あぁ、ご苦労だった」
吸血鬼は少年からマントを受け取り、ばさりと羽織る。
長身の吸血鬼をすっぽり包むマントは紺に似た深い夜空色だ。
「場所は?相手の予想はついているのか?」
「場所は大方、針枝の森の外れにある洞窟辺りだろう。相手はこの国の者でも、私に連なる者でもなさそうだ」
「そっか、面倒だな。俺が持っていった方がいいものはあるか?」
「そうだな…」
吸血鬼は悩むように辺りを見回す。
そして私に目を留めた。
「そこの娘が持っていた十字架とナイフを頼む。きちんと洗礼を受けたもののようだ」
あの十字架とナイフは12の時、お守り代わりに貰ったものだ。
レイシャも同じものを持っている。
「もっとも、私には効かないが」
嫌みっぽく、吸血鬼が言う。
まるで私に言い聞せているみたいな言い方だ。
私は吸血鬼の整った顔を見上げる。
ナイフでつけたはずの頬の傷は跡形もなくなっていた。