吸血鬼の花嫁
吸血鬼が傍にいるせいか、相変わらず雪は私とレイシャへ触れずにいる。
寒くもない。
気付いたレイシャが、無邪気に不思議ねと笑った。
無事に村へ着き、家のドアを叩く。
出て来た両親は私たちを見てまず驚き、それから泣き出した。
正体を隠すためか、吸血鬼はいつの間にか黒髪になっていた。
そして、抱えていた娘を私たちの家に預けると、さっさと帰ろうとする。
両親は、恩人である吸血鬼を引き止めようとしたが、吸血鬼は静かに首を振った。
私は吸血鬼を見送るために、家の外へ出る。
家族が見ていないのを確認して、その背に話し掛けた。
「本当にありがとう。…そして、顔を傷つけてごめんなさい」
吸血鬼はちらりと私を見た。
凍えるような氷色の瞳。
「礼は必要ない」
切り捨てるような冷淡な口調に、私は口を尖らせた。
せっかく素直になれたのに。
「…別れ際にそんな言い方しなくてもいいじゃない」
本当に、本当に感謝しているのだから。
その気持ちが伝わっていないのか、吸血鬼の表情は変わらなかった。
「いずれまた、私を呼ぶことになるだろう」
吸血鬼は意味深に呟いて、ばさりとマントを翻す。
それは確信しているような予言めいた言葉。
「どういう意味…?」
私の問いかけに答えはなく、吸血鬼は吹雪の中へと消えていった。