吸血鬼の花嫁
そこにあったのは、物語に出て来る高貴な人の部屋のようだった。
「花嫁のために急いで準備したんだ。ちょっと埃っぽいのは勘弁してくれ」
「私には不相応だわ…」
レイシャと二人の部屋はとても狭く、ベットの他には小さな共用の机があるだけだった。
それに比べれば夢のようなところである。
私は大きな天蓋付きのベットやお洒落なテーブルセットに鏡台、それら全てに唖然としていた。
足を踏み入れるのがなんだか勿体ない。
「気にすんなって。誰かに使ってもらった方がこの部屋のためだ。それとも気に入らなかったか?」
不安げな眼差しでルーは私を見上げた。私は首をぶんぶんと振って否定の意志を示す。
嬉しくないはずがない。
なのに。
レイシャといたあの部屋が恋しく感じるのは、なぜなのだろうか。
手を伸ばせばいつだって、レイシャがいた。
私は沸き上がる感情を、そっと胸の奥へ押し込んだ。
「花嫁は疲れただろ、ここで休んでいてくれ。夕飯が出来たら呼びに来るから」
ルーはそう言い残し、身を翻した。
私はその言葉に甘えて戸惑いながらもベットへ横になる。
柔らかに私を包むベットはとても心地がよくて、
とても寂しかった。