吸血鬼の花嫁
眠る前に、ルーから聞いた話を思い出す。
「もしかして、家妖精さん?」
私の言葉へ答えるように、テーブルの上がこつこつと鳴った。
もちろん、そこには誰もいない。
なんだか不思議な光景だ。
だけど、嫌な感じはしなかった。
「どうぞ、これからよろしくね」
「何、テーブルと会話してるんだ?」
「ひゃっ」
後ろから声を掛けられ、私はびくりと肩をすくめる。そこにいたのは、もちろん、ルーだ。
ルーはテーブルの上を見て、あぁと息を漏らした。
「家妖精がいたのか。表に出て来るなんて珍しい」
「話したり出来ないの?」
私の言葉にルーが困った顔をする。
「出来るかもしれないけど……俺も見えないから」
「見えないの?」
意外だ。ルーはこの館のことならなんでも知っているような気がしていたのだ。
「あいつらは特に人前で姿を消すのに長けているから。吸血鬼には見えるらしいんだけどな」
「…そういえば、あの人は?」
館に着いてから、一度も吸血鬼の姿を見ていない。どこかへ消えたままだ。
「多分寝てる。あんまり調子よくないから」
「…そうなの」
調子が良くないというのは初耳だ。そんな様子には見えなかったのに。
ルーが何か言いたそうな曇った顔をしながら私を見上げている。
言うべきかどうかをひどく悩んでいるのが分かった。
「ルー?」
「……。なんでもない。早く食堂へ来てくれ。スープが冷めちまう」
悩んだ末、ルーは首を振りながら深く諦めのため息をはいた。
私はルーが何かを言うまで待っていたが、結局、ルーは何も言わないまま、部屋から出て行ってしまった。