吸血鬼の花嫁


「……しまったわ」


部屋の扉を出た後に、私は後悔する。

食堂の場所が分からなかったのだ。

広い館を全部覚えられるわけもなく、初めの方に案内された食堂の位置はおぼろげになっている。

とりあえず、こちらだと思う方へ歩いて行くと、突き当たりに一階へ続く階段があった。

一階、だったわよね…。

赤い絨毯の廊下を一段一段下り、着いた先にあったのは、知らない光景だった。


「どこなのかしら、ここ…」


少し他の場所より薄暗い。廊下の先がよく見えなかった。


視界の端で、ふわりと青いものが揺らめく。

私は慌ててそちらを向いた。

廊下の先の暗がりに青い色が浮かんでいる。


「ゆ、幽霊かしら」


吸血鬼の館なのだから、幽霊ぐらいいてもおかしくはないのかもしれない。

だんだんと近づいてくる青い影から、私は逃げるべきか迷った。

逃げて、これ以上迷うのは困る。


「あなたは、誰?」


私は覚悟を決めて叫んだ。

青い影が近づいてくるにつれ、こつこつと靴音が響く。

足が、ある。


それを確認し、私は小さく安堵した。




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