吸血鬼の花嫁


少し弱った少年の顔がこちらを見ている。

少年の皮を被った、本当は少年ではないもの。矛盾を孕んだ存在。


「俺、家族が欲しかったんだ。だから吸血鬼が自分のところに来るかと聞いてくれた時、嬉しくて一生大事にしようと決めたんだ。

あんたが来てくれた時も正直凄く嬉しかった。望んで来たわけじゃないから、喜んじゃいけねぇのかもしれねぇけど。


だけど今は、花嫁があんたなことが嬉しい」


ルーが肩から力を抜いたのが分かる。

純粋な褒め言葉は、なんだか気恥ずかしい。


「有難う。私もルーがいてくれて良かった」


吸血鬼と二人きりだったら、きっとすぐに逃げ出していただろう。

そうしなかったのは、ルーがいたからだ。

ルーが笑う。大人びた笑みは幼さの残る顔立ちにひどく不釣り合いだ。

それは多分、誰よりもルー本人が知っている。


「っと、そうだ。布を買ってきたんだ、衣装用の。赤い奴が突然来なけりゃもっと早くに見せられたのに」


この場にいないハーゼオンに文句をつけながら、ルーが立ち上がった。


「でも来なかったら、私はルーの抱えてるものを知らずにいたかもしれないわ」

「知らない方が良かったかもな」

「そんなことないわ。私たち家族なんだから」


歩き出そうとしていたルーの足がぴたりと止まる。

ルーは照れたように鼻の頭を掻いた。


「……まあ、そうなんだけど。そういえば、渡した本は?」


渡された本というのは、古い衣装の描かれた本のことである。

ここ数日の出来事で、そんなことはすっかり忘れていた。

ルーは衣装の布を買いに行くために、館を留守にしていたのに。


「部屋に置いてあるから、急いで取ってくるわ」

「んじゃ、よろしく。俺は布を取ってくるから」


私たちは部屋から出て、各々の場所へ向かった。



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