吸血鬼の花嫁


部屋を行く途中、私はふと妙な予感に捕われる。

はっきりとした形は分からないのに、既に答えが出ているような、不可解な六番目の感覚が反応していた。

ここからでは見えないはずの、廊下を曲がった先にいる存在を強く感じている。

急に喉が渇いていたことを思い出したかのように、体が引き寄せられた。


「吸血鬼…、そこにいるの?」


どうしてそこから寝ているはずの吸血鬼の気配がするんだろうか。

私は廊下を進んで曲がると、青髪の吸血鬼がぐったりと壁にもたれ掛かっていた。


「どうしたの、大丈夫」

「…赤赦の気配がしたようだが」


どうやら、ハーゼオンへ会いに出て来たようである。

残念ながら、既に目的の者は館から去ってしまっていた。


「もう帰ったわ」


吸血鬼がうっすらと目を開く。


「…そうか」


力なく答えた吸血鬼は、ふらふらと来た道を引き返そうと歩き出した。

倒れそうな体を私は横から支える。

吸血鬼は拒絶せず、私に身を預けた。

こんなに調子の悪い原因を考え、私はあることを思い付く。


「あなた、もしかして生気が足りてないんじゃ…」


ハーゼオンやルーは、遠回しに私へヒントを示していた。

この館で吸血鬼に生気を与えられるのは、私しかいない。

直接的に言わなかったのは、彼らの優しさだろう。彼らなりに、私のことを考えていてくれたのだ。

私が出した答えに、吸血鬼が小馬鹿にしたように唇の端で笑う。


「お前が与えてくれるとでもいうのか」


冷たい眼差しを私は駆け引きをするように見返す。


「……。いいわよ」


私は考えるより先に吸血鬼の冷たい唇を啄んだ。

唇をすぐに離し、吸血鬼を見上げる。

少し驚いたような氷の瞳に私が映し出されていた。


「…私が消えた方が、人の子には好都合だろうに」


吐息に紛れた自嘲と共に、吸血鬼の両手が私の顔の横へ添えられる。

逃れられないよう固定された私は、逃げ出すという選択肢を失ったことに気付いた。



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