吸血鬼の花嫁
初めての時に憧れるものは、それなりにあった。
だけど、窒息しそうになった息苦しさばかり思い出して、後の記憶は飛んでしまっている。
いくら相手が吸血鬼とはいえ、人口呼吸と変わらないような感想しか出てこないのは、損をした気分だ。
「なんだかなぁー…」
「何がなんだかな、なんだ?」
ルーの問いかけに私は跳び起きて辺りを見回した。
声の主がじっと私を覗き込んでいる。
「ええと、私は…。どうして、ルーがここに?」
私は自分の部屋にいるようだ。
「廊下で倒れたんだって?吸血鬼に聞いた」
「え、えぇと…」
正確とは少し違うが、そういうことにしておいた方が良さそうだ。
生気を与えるためにキスして倒れたなんて恥ずかしくて言えるわけがない。
「た、多分…」
「最近、赤のアホが来たり色々あったもんな。…体調悪かったらすぐに言ってくれよ。俺も吸血鬼もそういうことには無縁の世界にいるから、言ってくれないとわかんねぇんだから」
「…分かったわ、心配かけてごめんなさい」
「いや、謝らなくてもいいからゆっくり寝てくれ。衣装についてはまた明日な」
ルーは手に持ってた真新しい布を椅子の上に置いた。先日買ってきた布だろう。
「んじゃ、俺は珍しく吸血鬼の体調がいいみたいだから、ちょっと用事や伝言を伝えに行ってくる。
また後で何か口にするものでも持ってくるから」
体調がいいという言葉に安堵する。
「あ、あの人は…」
「ん?」
部屋を後にしようとしたルーが振り返った。私は何か言いたい気持ちがしたのに、形に出来ないでいる。
「……なんでもない」
「変な奴。必要なら吸血鬼を見舞いに寄越そうか?」
「そ、それはいい。いらないから…っ」
なんとなく、顔を合わせるのが気恥ずかしい。
私が慌てて首を振ったのを見て、ルーは部屋から出ていった。
一人になった私はぼんやりとベットの天蓋を見つめる。
人差し指で唇をなぞると、憂鬱に似た気持ちが蘇ってきた。