感方恋薬-知られざる月の館-
ひゅうっと教室内に風が吹き渡った様な気がした。

教室に残されたあたしと紀美代は、何となく顔を見合わせる。あたしは

「か…かえろっか…」

と、紀美代を誘う。

「そ、そうですね」

紀美代は微妙な笑顔を作りながらあたしに曖昧な返事をする。

なんとなく友情が芽生えた様な気がする夕暮れだった…

         ★

「いやぁ、参った参った」


爺は右手で長い髭を弄びながら左手を腰に当て、後ろにそっくりかえりつつ、全然参っていない様子の口調で、部屋の中をゆっくり歩き回りながら、机に頬杖をついて、だらんと座っているあたしに向かって笑い話でも話すが如くに声をかけてきた。


「爺、参ってるんなら、もう少し、参った態度って物が有るんじゃないの?」


ぞんざいな態度であたしは爺に向かって一応警告する。しかし、この爺の事だから、何か妙な事を考えている事は明らかだった。
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