破   壊
 精神鑑定に於ける彼の供述資料が届いた。

 彼の、これまでの生活振りが克明に記載されていた。

 彼が本当の事を述べているかどうかを探る為に、日を置いて同じような質問が繰り返されていたが、話自体は一貫性が保たれていた。

 おもしろいのは自己分析の欄で、過去の自分の方が、現在よりも遥かに優れた人間であったと述べている点だ。

 二十歳位の頃は、自分の全ての行動に意義があって、その点で存在価値が高まっていたと供述している。

 現在の自分は?との問いに対し、

【ツーランクもスリーランクも下がってしまった。】

 と自己分析している。

 具体的に何処が?と聞かれた彼は、

【人を殺す事に快楽を感じ始めたから。】

 と答えた。

 それまでも快楽じゃなかったの?

 私の疑問と同じ事を担当した精神科医が質問している。

 その質問に対し、彼は怒りを露にしたらしい。

 分析資料の欄外に註訳として、

【他人から自分を否定されるような意見や、ものの見方をされた場合、突然攻撃的な一面を見せる。かと言って、自分に対し賛同や、共感を抱かれても、それをストレートには受け取らず、迎合の為の詭弁ではないかと猜疑心を抱く。】

 との一文があった。

 そう、彼は己を理解出来る人間は、己しかいないと思っているのよ。

 死に関する質問になると、より自己擁護の部分が判る。

【これだけの事件を犯すと、死刑になってしまうけれど、その事を考えた事は?】

【死刑って、絞首刑になる事だよね。違う方法でやって貰えるのなら、構わないけれど、勝手に死ぬ日や殺され方を決められるのは、はっきり言って納得行かないな。
 死ぬ日は、僕自身から言うよ。やり方も、絞首刑なんかじゃなくてね。】

 この言葉を鵜呑みにすれば、明らかに彼は死を恐れている。





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