破   壊
 第一審の最終弁論を間近に控え、私の気持ちは正直それどころではなかった。

 息子の大輔が警察沙汰を起こしてしまったのだ。

 同じクラスの男子生徒を怪我させたらしいのだが、普通の喧嘩ではなかったのだ。

 最初に知らされた時、

「ナイフで刺した」

 という警察官の声が、受話器を通して何度も山彦のように共鳴していた。

 何も手につかなくなっていた私は、殆どヒステリックな状態だった。

 警察署に出向くと、少年課の婦人警官が私に詳しい状況を説明してくれた。

「息子さんと、被害に遭われたお子さんは、以前から余り仲が良くなかったらしく、今回の件も些細な事が発端となったようです。
 積もり積もっていたものが、爆発してしまったのではないかと。ただ、息子さんがナイフを持っていたということが……。
 ひょっとしたら、最初から刺すつもりがあって、ナイフを持ち歩いていたのかも知れません。相手のお子さんの怪我の状況ですが、はっきり言って、あまり芳しくないようなんです。
 今、救急病院で手当を受けてますが、一時は心肺停止状態にまで……。
 一応、年齢が14歳になってますので、ご存知のように刑事事件として扱う事になります。
 最終的には、家庭裁判所への送致、或は少年の場合でも検察庁へ……あ、お母様は弁護士をされてますから、この辺の事は詳しく説明しなくとも判りますね」

 息子が人を刺した。

 ひょっとしたら相手は死ぬかも知れないという。

 使用した凶器は、サバイバルナイフ。

 直接見せて貰った。

 息子がそんな物を持っていたなんて……

 一万円近くする品物だという。

 お母さんが買って上げた物ですか?

 私が?

 買うわけないでしょ!

 お小遣だって、毎月決まった金額で、欲しい物がある時は、ちゃんと私に……

 ギター……?

 ギターはどうしたの?

 私は、混乱の中で全ての思考をズタズタにされていた。




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