学び人夏週間
松野がうるさい重森を制したことで、国語部屋はやっと本来あるべき姿になった。
私はホッと胸を撫で下ろし、しかしこの二人がまたサボったりしないように監視する。
そして成果をチェックして、できない部分はできるようになるためのサポートをする。
最初の時間はわりと暇だが、次の時間からは他のクラスで集められた国語の課題のチェック作業が加わる。
できるだけサボりたい二人ときちんとやらせたい私の無言の戦いがしばらく続き、やっと迎えた最初の休み時間。
合宿はまだ序盤も序盤だというのに、一日歩き回った後ほどの疲労感に襲われた。
「お疲れさま。これから10分休み時間です。時間通りに始められるように、2分前には教室に戻るのがルールになっているのでよろしくね」
「はーい」
二人はすぐに部屋を出て行った。
ただでさえ二人しか生徒のいない狭い部が、余計に寂しくなる。
私も立ち上がり、俊輔のもとへ向かった。
彼が担当している社会部屋の扉のところで手招きして呼び出し、二人で生徒のいない場所へ移った。
「何だよー、怖い顔をして」
相変わらずヘラッと締まりのない顔。
仕事をしているという自覚はあるのだろうか。
我が彼氏ながらますます心配になる。
「ねぇ。この塾どうなってるの? 生徒は生意気だし、勉強する気が全くないし。こんな合宿、何の意味もないじゃん!」
思っていることを一気にぶちまけた。
俊輔は私の形相にきょとんと首を傾げる。
「まあまあ、落ち着いて」
「はぁ?」
何よ、その当然でしょ、みたいな態度。
自分のところの生徒がこんな状態だというのに、どうしてそんな平気な顔ができるの?
ふつう講師なら、真面目に学習させるための方法を考えたりアドバイスをくれたりするんじゃないの?
私の表情から考えを汲んだ俊輔が、ふと顔を緩ませる。
「うちの塾は、“仲よく・楽しく・元気に”がモットーなんだ。彩子の塾はバリバリの進学塾だから、ビックリするのも無理はないけどね。俺たちの仕事は成績を伸ばすっていうより、まずは机に向かわせて勉強をする機会を作ること。嫌がったりごねたりするけど、最終的にはちゃんとやるやつらだよ、みんな」
ここは進学塾ではない。
この塾にはこの塾の文化があるのもわかる。
だけど、塾の存在意義って、成績を伸ばしたり、志望校に合格させることでしょう?
「あのね俊輔、塾は生徒の機嫌をとるためにあるんじゃないんだよ。顧客はね、あくまで生徒の保護者なの。保護者は生徒の成績が伸びるようにここに入れてくれてるんだよ?」
合宿って、決して安くはないのに。
それでも送り出してくれる保護者のご期待に、私は応えたい。
「わかる。彩子の言いたいことは俺もわかるよ。でも、それがうちのやり方なんだ。親御さんたちも納得して、信頼して送り出してくれてるから」