AEVE ENDING
しかし、動揺を表には決して出さないよう表情筋を固めながら、倫子は起き上がった。
…さらり。
衣擦れは優しい。
けれど、首筋の傷がずくりと痛んだ。
鐘鬼に手を借りながら立ち上がり、枕元に置いていたカップを手に取る。
まだ少し残っているお茶を啜ろうと口を付けた瞬間。
「…喧嘩、したらしいな」
ガッシャーン。
足元に転がった白いカップの破片、口端から漏れたお茶。
知らないものだと決めつけていたからか。
まさか、鐘鬼の口からその台詞が飛び出るとは思わなかった倫子は、思わず派手なアクションを起こしてしまった。
「…わかりやすい奴だ」
そんな倫子とカップの破片を一瞥し、鐘鬼は溜め息混じり、苦笑混じりにそう吐き出す。
好きでわかりやすいわけじゃない。
居たたまれないまま、鐘鬼の視線から逃れるように洗面所へ向かう。
正直、なにも答えたくない。
キュ…。
いつものように蛇口を捻る。
捻った分だけしぶきを上げる水は、その勢い虚しく排水口へと吸い込まれてしまう。
(…なくなれ)
そうだ、この想いも全部。
(この水みたいに)
そうして流されて、海に還ればいい。
「…、」
けれど、それはただの願いでしかない。
願うだけ無駄。
(消えるわけないんだ)
この無駄に存在を主張する、強烈な想いは。
「っ、」
突如近づいてきた気配に顔を濡らしたまま鏡を見上げた。
背後に立つ鐘鬼が、腹立たしいまでに雲雀と重なる。
「…なに」
自分でも疑心に満ちた声だと認めるほどの声だった。
(だって、わからない)
その視線は、なにを訴えている?