AEVE ENDING






「…わからないくらい、ねぇ、なに?」


あぁ、返答など待たずに壊してしまいたい。

己の身ぐるみも全て引き剥がし、遮るものなく橘と重なり合いたいと思った。

その醜く愛しい体を好きなだけ貪って、新しい傷を与え、慈しみに漬け合い、もういやだと泣くほど、滅茶苦茶にしてしまいたい。



「…橘、」

その薄い瞼に口付けて、緩く緩く、促して。

それでも躊躇うように揺れる視線に首を傾げればすぐに、その乾いていた視界に水が湧く。



「…でも、わたし、は」


ほらまた、「でも」。
いつだって橘は、僕に遠慮してる。


「汚いから、なんて言ったら、無理矢理犯すよ」

その前に牽制を口にすれば、橘の不安げな顔が更に深くなった。

涙を湛えたその眼球すら舐めまわして飲み込んでしまおうか。


「…橘」

呼べば、ひくりと肩を震わせる。

恥ずかしさからか、躊躇いからか、恐ろしさからか、僕の視線から逃れるように、身を捩る。

ささやかに捩られた腰に腕を絡め抱き上げて膝へと座らせ、白い壁へと押し付けた。

ぐちゃぐちゃになったシーツで互いを覆い、彼女の顔を下から覗き込むように。

あるのかないのかすらはっきりしない胸板に鼻先を埋めて、涙の匂いに、そっと息を吐く。


―――赤ん坊だ。

暖かく柔らかく、世界を憂い喜び、泣いてばかりいる。



「…橘」

シーツで囲う世界は鳥籠のようで。

飛び立つことも鳴くことも叶わない、憐れなカナリアの巣。



「ねぇ、橘」


言ってよ。


(本当は、知ってるくせに)



僕が一番、欲しい言葉。

僕が一番、欲しいもの。


揺れる視界に僕が映っていた。
きっと僕の眼にも、橘が映っている。




「…、好き、だよ」


戯れることなど知らなかったアダムとイヴは、罪深い林檎を口にして、禁忌の遊びを覚えたのだ。



(それが、僕らの始まり)





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