AEVE ENDING
高い天井に響く倫子達の声が、鍾鬼にとっての安らぎだった。
(…丸くなったものだな)
見知らぬ異国の地で、母国ですら手にしなかった穏やかな日々を手に入れられるとは思ってもみなかった。
それに浸された自分が、端から見るよりずっと心穏やかであることを、鍾鬼は自覚している。
人の血にまみれた過去がなかったことになるわけではないが、それでも、この安寧の日々が続けばいいと柄にもなく願う。
(橘、雲雀、真醍……)
―――できれば、この顔ぶれでずっと馬鹿をやっていたいとすら、思うのだ。
…カツリ。
真醍が倫子にチョークスリーパーをきめたところで、雲雀が鍾鬼の横に立った。
横目で見れば、繊細な毛先が風に靡いてその目元を隠している。
見えなくとも、その視線がひた向きに倫子へ向けられているとわかっていた。
そして、自分とは特に言葉を交わす気もないことも。
(…変わったものだな)
それでも、彼からこうして傍に歩み寄ってくるなど以前なら考えられなかった。
そしてそれを自然に受け入れている自分も、きっと変わったのだろう。
―――素直に、友人だと公言してしまえる関係が、確かに存在していた。
「…なにを企んでいるかは知らんが、自分達だけで全て背負おうとするのはやめておけ」
こんな口を聞く自分がおかしい。
「…背負いきれなくなったら、君達にもあげるよ」
そうして、はぐらかすことなくそんなことを言う雲雀もおかしい。
おかしなことばかりだ。
この日本に来てから。
橘倫子という人物と関わってから。
雲雀という「修羅」を、目の当たりにしてから。
それ以上は言葉もなかった。
妙な充足感が鍾鬼の口角を自然と持ち上げて、見れば雲雀の口元も少し緩んでいるような気がする。
今度は肩を組んで笑いあっている倫子と真醍の声が心地良かった。
―――……ザァッ。
互いに距離はあったが、少し冷たい潮風が二人の間を強く吹き抜けて、今までの蟠(わだかま)りもなにもかもを遠くへ運んだ。
それで、良かった。
微かな「橘」の香りが隣から漂ってきても、雲雀は鍾鬼の傍らに立つ。
鍾鬼もそれを黙って受け入れる。
―――それで、良かった。