AEVE ENDING






『幾ら修羅だっつっても、力だけじゃ勝てない場合もあるよ』

そうだよなぁ。

神妙な奥田の言葉は、倫子の頭を悩ませた。

(果たして私の口からそれを雲雀に伝えられるか?)

いや、伝える分には容易だろうが、研究者との会話を聞かれてしまった以上、倫子自らがそんな怪しい情報を呈示してみろ。

自分から怪しんでくださいと言っているようなものだ。

(…しかも、ただでさえ頭ン中が筒抜けだっつのに、悪の秘密結社に攫われてさんざコキ使われて死ねバカなんて本音が流れたらやっぱマズイ)

なにがまずいって、自分の命が一番まずい。


『…奥田から伝えてよ』

何パターンかのシミュレーションをしてみた結果、倫子の口から出たのはそんな責任転嫁だった。
かなり安全且つ無難な道を選びすぎた感は否めないが、自分の命がかかっている。妥協は許されない。

『えー?俺が言って信用するかなぁ、彼』

咥え煙草をぷらぷら揺らしながら、奥田はくいと眉尻を下げた。

こちらに秘めておきたい事実がある分、あの底冷えするような透明な眼だけは避けたい。

乗り気でない奥田に、倫子は畳み掛ける。

『あんたと私の信用度なんてあってないようなもんでしょ。ならどっちが言っても同じだし、あんたは腐っても教師だ。大丈夫、お前ならやれる』
『バッカお前。何事も腐る手前っつーのが一番味があるもんなんだよ。ダンディ然り果物然りだ』
『過ぎたら?』
『呆けたジジイに果物だった物が残る』
『自分で言ってて悲しくなんない?』
『なる』

かなり話がズレてきたところで、結局はスピリチュアルダメージを受けた奥田の敗北であった。

『私はなにも知らないってことでよろしく』

話を切り上げ部屋を出ていこうとした倫子が、扉を開けながら奥田に付け足した。
そんな倫子を、呆れた眼差しで奥田は見る。

『…冷たいなぁ、倫子は。パートナーは支え合わなきゃなんねーんだぞ』

思ってもいない甘ったれたことを。
倫子は嘲るように鼻を鳴らした。


『馬鹿だね、奥田。パートナーだからこそ、頼られるまで待ってやらなきゃ』




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