AEVE ENDING




倫子はぶっすりと唇を尖らせたが、しかし思いの外、素直にベッドへと歩み寄ってくる。

腹が減っているらしい。
馬鹿でかいベッドの縁に腰掛ける雲雀とは少しズレて床に胡座を掻き、そろそろとトレイに手を伸ばした。


「…あれ、シャワー浴びたの」

水分が滴る雲雀の艶髪を目に、湯気の立つスープにカットされたフランスパンを浸す。

「見て解るでしょ」

ひんやりと馬鹿にする視線を向けられた。
なんとなく口にした話題だからこそ、そう無碍な返答をされると頭に来る。

(…落ち着け倫子、奴の口の悪さに乗ったらお前は終わりだ)

「今すぐ終わらせてあげようか?」

スープを上品に啜る雲雀が、またも脳内の思考に反論してきた。

倫子は顔をしかめつつ、しかし手元から漂う美味しそうな匂いに完全に懐柔される。
スープに浸し柔らかくなったフランスパンを、美味そうに口を含んだ倫子を見ながら、雲雀は親鳥に餌を催促する鳥の雛を思い返していた。
そんなことを思われているとは露にも思わない倫子は、はくはくと口を動かしている。

「っぃ、」

しかし、ぴり、と感じた痛みに倫子は慌てて口を押さえた。

「…どうしたの」

雲雀がフランスパンを手に、倫子を見遣る。

「口ん中、が、痛い」

絶望的な表情を浮かべた倫子に、あぁ、と納得する。

「あれだけ殴られればね」
「…あんたも容赦なく殴ってきた一人なんだけど」
「ごめんね」
「心がこもってねぇよ」

再びフランスパンを口に含む。今度は先程より慎重に。

「保健医に看て貰わなかったの」

そんな倫子の横で、雲雀はバターを塗ったパンを上品に口へと運んでいる。

「…今の今まで忘れてた。そういえば怪我してたな、みたいな」
「馬鹿な人…」
「あぁもう、折角美味しい夜食もらってきたのに!」

口の中が切れていたら、その味すら満喫できないのは当然だろう。
しかし、それでも夜食はしっかり味わうつもりらしい。
痛い痛いと言いつつ、二枚目のフランスパンに手が伸びた。
痛いくせによく食べる、と雲雀は呆れる。




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