AEVE ENDING
「なぁに、急に静かになっちゃって」
リィの苛立たしげな声に、思考を飛ばしていた倫子ははっと息を飲んだ。
脳髄を突く不気味な音が、尚一層強く跳ねる。
「…ねぇ、神様はどこに居るの?」
一歩。黒と翠が、迫ってくる。
「私は神様を探しているのに、どうしてあなたに反応するの?」
リィはその場を動こうともせず、こちらを睨み付けてくる。
それこそ親の仇でも見るような――凶悪な眼力で。
「ねぇ、神様は、どこ?」
リィとロゥは無表情のまま。
ロゥの右の人差し指がゆるりと倫子を指差した。
途端、深い底に溜まるような黒と翠が、跳ねるように煌めく。
倫子の視界を、二色が埋め尽くした。
ピィ───…ンン…。
「ぅ、ぁ…」
脳内を静かに駆け回っていた「ピアノ」が、頭蓋骨を叩き割るように激しくなる。
ピィイ……ン。
内側から鼓膜を震わせ、こめかみに痛みが走り、視界がチカチカし始めた。
脳を直に揺さぶられるような衝撃が、目眩と嘔吐感、頭痛──発狂しそうな程の忌まわしさが付きまとう。
「ぃ、…ぁ、あ、」
唇は小刻みに震え、宙をさ迷う焦点の合わない眼。
それを眺めながら、ロゥは満足げに微笑んだ。
「素敵…。もっと悲鳴を上げてみせて」
チカチカと点滅する倫子の視界に、黒と翠がじっとりと入り込む。
既に目の前まで歩み寄っていたロゥが、震える倫子の両頬をやんわりと包みこんだ。
「───ぅあ、っ…」
その触れた先から、まるで水面に弧が描かれるように更に音が強まっていく。
振動する「ピアノ」が、今にも倫子の脳髄を灼き尽くそうとしていた。
「可愛い…。ねぇ、君」
うっとりと微笑むロゥを見て、リィは呆れたと言わんばかりに唇を尖らせる。
「まぁたロゥの悪い癖が出た!悪趣味ぃ」
「…悪趣味だなんて酷いなぁ、リィは。僕は僕の力で苦しむ女の子が好きなだけなのに」
「へんた~い」
近くにいるはずなのに、とても遠くでそんな会話が聞こえる。
倫子は脳内で響く「ピアノ」の強烈な音に、がちりと唇を噛んだ。
(…悔しい)
───また、屈服されるのか。
『こんな微弱な力じゃ、役に立たぬ』
───ふざけるな。
『貴様は神の足元にひれ伏す価値しかない』
『死に損ないめ』
―――冗談じゃ、ない。