AEVE ENDING
「…神様はここにはいない。だから、帰れ」
チカチカと右目の端が点滅する。
こんな陳腐な誤魔化しで、ふたりを騙せるとも思わないが。
案の定、目の前のオッドアイはにこりともしない。
「どうする、リィ」
「…どうするもこうするも、神様を連れてこなきゃ、私達が怒られるもの」
「だよねー」
黒と翠が憂鬱そうに沈み、次には倫子を見やるリィの眼は忌々しげに歪んでいた。
苛、苛、苛。
沸々と沸き上がるそれに、翠が赤みがかって燃えた。
「…もう!こんな奴が出てきたからいけないんだ!」
リィがぱっと手を上げる。
長い指が筋肉が引きちぎれそうなほど伸びたかと思えば。
…ゴ、ォ―――ッ。
まるでその細い指に誘われたかのように吹き荒れた剛風が、倫子の前髪を擽った。
反射的に瞼を閉じて構えたが、それは間違いだったとすぐに気付く。
―――ズクリ。
「…っぐ、」
壁についていた右腕に激痛が走った。
見れば、まるで鋭すぎる刃で斬られたかのようにぱっくりと口を開ける一筋の傷。
それが、右の二の腕にできていた。
とろりと血が浮かび、皮膚を伝って床に小さな血溜まりを作る。
「っいー…」
足元に出来た赤い池に思わず表情を歪めた。
リィという女がなにをしたか知らないが、風でも切るような簡単な仕草が隙も与えず身を裂いたのだ。
「…リィ、あんまり表立ってやるのはよくないよ」
短気な彼女の攻撃に、じっくりと責めていくのが趣味らしいロゥは呆れている。
「…だって、ムカつく!」
しかしリィはヒステリックに叫び、ロゥの言葉になど耳を貸さない。
「ムカつきの代償がでかすぎんだよクソ女!」
倫子も限界である。
血が滴る腕を抑え、出血を押さえながら怒鳴りつけた。
その怒声の勢いに、圧迫された血管がまた血を吹き出す。
「…なに、コイツ!もう無理!リィ、我慢の限界!」
「お前がいつ我慢したよこらあ!」
クソ女呼ばわりされたオッドアイと、ムカつきまぎれに腕を切りつけられた単細胞が同時に戦闘態勢に入る。
無事なほうの腕で構えながらも、倫子の負傷した腕はぶらりと垂れたまま。
思いのほか深いらしい傷は、筋肉を一筋掠めていたらしい。
構えようにも力が入らず、ぴくりとも動かない。
足元は、既に血の海と化していた。