AEVE ENDING
そしてふと思い出し、雲雀は顔を上げた。
そういえば見ない顔がある。
自分の傍に居なければならない筈の、役立たずのパートナー。
(…まさか、また子供と戯れてるんじゃ―――)
こちらは慣れない共同作業に徹していたというのに。
確信もないが、有り得なくはない予想に機嫌が傾く。
(…橘)
こちらから探しに出向くつもりは毛頭ない。
呼び寄せてなにをしていたか詰問しなくては。
しかし、返事はなかった。
それにますます、雲雀の機嫌は傾いていく。
(橘、どこにいるの)
尚も呼び掛けるが、やはり返事はない。
雲雀の眉間に、深い皺が刻まれる。
彼の一番嫌いなことは、他者に無視をされることだ。
産まれてこのかた、そんなことされたことがないから、たったいま、知った。
雲雀は不機嫌も顕わに、すくと立ち上がる。
捜し出して馬鹿にして思いきり殴って血祭りにしてやろう。
物騒な思考に口許を歪めながら、騒がしい周囲から離れた。
大人達がアダムの力を借りて環境改善に努める中、子供達は無邪気に走り回っている。
その無邪気さが異様に癪に障ったが、浜に出たところでそれは別の思考に取って変わった。
「あ…」
―――居た。
先ほど訪れた浜とは少し離れた、貧困エリアの最も奥、つまり「壁」が聳えるそこに、探し物はいた。
浜と波と、砂浜の合間。
制服の上着を脱ぎ、高く聳える隔離壁の真下にうずくまっている背中は異様だ。
周囲には、ボロ布を被った子供達が数名。
片足をヘドロまみれの海水にどっぷり浸けて、倫子はなにかをしていた―――完全に地面に蹲っている為、恐らく下着も汚している。
背後に迫る雲雀に気付く様子はない。
ただ薄汚れた壁に向かって、手を、手首が隠れるまで地中のなかに埋めていた。
そんな不可解な倫子を、子供達は固唾を飲んで見守っている。
(…新しい遊び?)
理解出来ずに首を傾げた雲雀の耳に、倫子の明るい声が届いた。
「あ、見っけ」
緊張していた背中とは対照的に、期待に弾んだ間抜けな声。
そう囁いたと思えば、肩を怒らせ一気に肘まで地中へと埋めこんだ。
ずぷっ。
―――途端、雲雀の背筋をぞわりと「なにか」が舐めていく。