AEVE ENDING
「…橘、」
泣きすぎてうまく呼吸ができないでいる倫子の顎を、雲雀は乱暴に掴み上げた。
「ぅ、…えっ」
汚い顔が雲雀を見上げる。
しかしすぐに睫毛が伏せられて、顎を捕らえる指に押し出された涙がぽたりと伝う。
ふるりと震えた唇が、雲雀を非難するように噛み締められた。
「…泣いてる暇があるなら、僕に頼めばいい」
知らずに口をついたそれは、自分ですら理解できない。
「……頼んで、あんたが、助けてくれるわけ?」
心底から戯言を疑う目が、じっとりと濡れて向けられる。
(酷いな、半信半疑くらいで止めればいいじゃない)
「標的が同じなら、手間も省けるからね」
「……ハッ、なんだ、それ…」
あ、やっと笑った。
くつりと吐き出すように笑い棄てた彼女を見て、少しだけ安堵したなんて、口が裂けても言えない。
「ほら、行くよ」
自分でも預かり知らぬ胸中を誤魔化すように、雲雀は踵を返した。
未だ周囲には全てを焼き尽くさんとするかのように、炎が豪々と燃え盛っている。
「うす…」
その催促にすぐさま返事を返した倫子に、口許が自然と弧を描いた。
あぁ、らしくなってきた。
そんなくだらない事を考えた自分が馬鹿馬鹿しくて嘲笑を浮かべる。
(───あぁ、もう)
「…愚者は今すぐ罰せられるべきだよ。そう思わない?」
例えば君みたいな女は、特にね。
(この僕の隣りに、違和感もなく堂々と立つような恥知らずだ)
「…罰せられるべきはあんたの不道徳っぷりだよ」
雲雀の云う愚者は件の双子を指すものだと受け取った倫子は、ふらりと彼の隣に並びながらそう口にした。
雲雀はその麗しく美しい笑みを、倫子へと向ける。
それはもう、目玉がとろけそうな微笑を。
「そう?心外」
ただしその親指は倫子の鎖骨に引っ掻けるように伸びて。
「…っイダダダダダダダッ!ちょ、それがいけないって今言ったばっかじゃん!学習しろよ!折れる!」
華奢な鎖骨は簡単に折れるのだ。
それを証明するように、ミシミシと軋む。
「…生意気」
ボキッ…。
「ギャ────ッ!」
倫子が上げる下品な悲鳴は、この惨状には全く似合わなかった。