AEVE ENDING





「───失礼。貴女を馬鹿にしているわけではありません。修羅の代わりが務まるのは、貴女だけだからですよ」

にたりと歪んだ口許が倫子の癇に障る。

男の口振りに、全身を鳥肌が襲った。

それは最も、恐ろしいこと。


(……こいつ、全部知ってるんだ)

なにも知らない雲雀の前で、暴こうと言うのか。

(ふざけるなよ)

今まで隠し通してきた努力を無駄にされてはたまらない。
なによりこれは、表に出てはならない過去だ。


「あんた、一体、誰なの」

闇組織の一員であろうが、何故、そんな人物が倫子の秘密を知っているのか。

───何故?


「…主君は全てを知っています。貴女に会いたがっていましたよ」

きっと役に立つ駒になるでしょうね。
くく、と蛇の喉が鳴く。

「体は人間でも、その脆弱なうちに修羅を宿している、地上で唯一の、器」

底冷えするような眼が、逃がすまいと私を捕らえた。


「───…、」

雲雀の視線が、ゆっくりとこちらへ向けられる。

粟立つ自分の肌に爪を立ててやりたいが、今は小さなアクションを起こすことすら命取りのように思えて、倫子は拳を強く握った。

そんな倫子の心情を知ってか知らずか、男の足運びは澱みない。


「…だからこそ短命な駒になるでしょうが、捨て駒には丁度よい」

微笑を浮かべたまま男は続ける。
気付けば、男との距離は歩幅数歩まで迫っていた。

なにを抵抗できることもなく、ただ木偶のように立ち尽くしていた。
目の前に、蛇が這いづり近付くまで。

「可哀想に…、こんな華奢な体で、耐えてきたのですね」

男の長い指が、頬に。

感情の読み取れない眼球と声色が恐ろしい。

そのどこか侮蔑の込められた、憐れみが。



「…っふざけるな!」


許せない。


「…、っ」

男の横っ面目掛けて繰り出した倫子の右足は、見事にヒットした。
しかし男は左頬を衝撃に歪めながらも、表情に変化は見られない。

敢えて避けず、受けたのだ。




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