AEVE ENDING
(忙しい子…)
わけが分からないが、どうせ彼女のことだ。
きっと理解しようもない。
今は、とにかく。
「行くよ。警備隊に出くわしたら厄介だ。それとも今、ここで殺して欲しいの?」
首を傾げて見せれば、倫子は勢い良く立ち上がり雲雀を睨みつけた。
無言のまま駆け寄ってくると、雲雀のシャツを掴む。
「偉いね、行くよ」
言えば、倫子は俯かせていた顔をぱっと上げた。
「双子は?」
「連れ帰って拷問したいのはやまやまだけど、今の僕には四人を空間移動させる気力がない」
(まぁこんなものは建前で、僕を神様呼ばわりする不快な馬鹿に触りたくないだけ)
連れ帰れば連れ帰ったで、他のアダム達にまで悪影響を及ぼす可能性もある。
「秘密裏って言っても、やっぱ無理があるもんね」
一応、双子はアダムなのだ。
連れ帰って拘束したとして、こちらもただで済むとは思えない。
倫子が、雲雀の考えを見透かすように言う。
実際、見透かされていたのかもしれない。
倫子の考えが雲雀に勝手に流れ込むのと同じように。
(気に喰わないけど)
「行くよ」
倫子が神妙な顔で頷く。
躊躇いがちにシャツを掴む指に、溜め息を吐いた。
「怪我人は警備隊が救助するよ。死人も火葬する……火葬に参列したいなら、また明日、来ればいい」
言えば、倫子は釈然としないというように眉を寄せた。
「でも、この貧困エリアの住民は政府にしてみたら不要のものだ。これ幸いと、生きてる人達も見殺しにする可能性もなくはないんじゃないの?」
確かめるようにこちらを見やる。
(妙なところでシビアなんだから…)
けれど、それは事実だった。
実際、今雲雀が吐いた言葉ただの気休めに過ぎない。
(でも、馬鹿正直にそれを肯定なんかしたら、面倒臭いし)
「…いいから行くよ。いくらなんでも、見殺しにはしない」
これも嘘だったが、きっぱりと言い切れば倫子はたっぷり三十秒考えて。
「……解った」
あれ。
「素直だね」
「なんか、うまく頭が働かないから…」
そう言ってシャツを握る指にぐ、と力が入った。
一瞬流れてきた倫子の思考は、血だらけの子供の姿一色。
傷む心臓の脈拍は、不規則だ。